活動方針

2026-2027活動方針

Ⅰ 基 調

1. 私たちをとりまく情勢

【消防職場を取り巻く情勢と課題】

1.近年の災害と緊急消防援助隊の活動

近年、日本各地で大規模な地震や広範囲な豪雨、山火事などの記録的な災害が頻発しており、こうした災害に対応するため、全国からの緊急消防援助隊(以下、「緊援隊」)の出動が増加しています。 2025 年に岩手県大船渡市や岡山県、愛媛県で大規模林野火災が相次いで発生した際には、緊援隊が迅速に出動し、昼夜を問わず消火・救助活動にあたりました。このような甚大な災害に対応するため、消防職員はこれまで以上に高度な専門知識と柔軟な対応能力が求められており、災害発生時に迅速かつ効果的な支援を提供するため、日頃から訓練と連携強化に努めています。

一方、緊援隊の運用には大きな課題が残されています、総務省消防庁は、能登半島地震の教訓などをもとに基本計画を改定し、緊援隊の増隊などによる機能の強化をはかっていますが、広域的・全国的な支援・応急体制にばかり依存するのではなく、大規模災害に際しても可能な限り主体的な対応を可能とする個々の消防本部の体制や機能の充実をより一層強化する必要があります。

また、同一の被災現場で救急・救助等の業務に従事しているにもかかわらず、派遣される消防本部間で手当等の支給額に格差があることが明らかになっています。この格差は隊員の士気を下げ、活動にも悪影響を及ぼしかねないため、早急に格差を是正し、処遇の改善をはかる必要があります。

 

2. 救急需要の増加と対応の課題

年々増加を続けている救急出動は、2024年に約772万件(速報値)と過去最多となり、救急活動における職員の負担が増大しています。 総務省消防庁は、救急安心センター事業(#7119)の推進や救急車の適時・適正な利用の啓発などの需要の適正化に努めていますが、高齢化の進展、熱中症患者の増加という社会的問題を背景とした救急需要の増加を補うものにはなっていません。

医療機関への搬送や応急手当など、国民の命を最前線で救う救急業務の重要性を踏まえ、業務の安定的かつ持続的な実施と救急隊に従事する職員の負担の軽減をはかるため、日勤救急隊の導入のみならず、職員の増員などによる抜本的な供給体制の充実・強化が必要です。

全消協は、引き続き自治労をはじめ、友誼団体や関係機関と連携強化をはかり、現場の実情を関係省庁および各政党等に対して訴え、必要な措置を講じるよう求めます。

 

3.消防職員の人員確保

総務省の人口推計(2025 年4月21 日公表)によると、少子高齢化の進行がさらに顕著である一方、外国人は増加し続けています。そのため、高齢化だけなく、外国人への対応も含めた行政需要の増加が見込まれます。

一方、少子化による生産年齢人口の減少で、労働力不足が深刻化しています。安定した地域公共サービスを持続的に提供するためには、人員確保が喫緊の課題です。消防においては、専門的な業務に従事する職員の育成に、万全な研修・訓練等が必要になることから、これに応じた人員確保を積極的に求めていかなければなりません。

 

4.各地で進められる消防広域化

人口減少、高齢化の進展に伴う救急需要の増大、多発する大規模災害などの社会環境の変化に対応するため、消防本部の規模を拡大すること等により、行財政上のスケールメリットを活かし、消防力の維持・強化のための消防体制の広域化が進められています。

こうした中、高知県では 2028 年度までに県内 15 の消防本部を1つに統合する案を示しました。統合案は、県消防局の下に「方面消防本部」を6か所設け、現在40 ある消防署や分署の数を維持して現場の活動に専念させるとの内容ですが、災害時における消防と市長部局との連携に支障をきたすのではないかといった懸念の声があがっています。

消防の広域化については、住民サービスの低下が生じることなく、職員の削減や人事異動を含めた労働条件の引き下げにつながることのないよう、関係消防本部の全職員の意向を踏まえた慎重な検討が必要です。

 

5. 定年年齢引き上げと高齢層職員の職務遂行について

2023 年4月から定年年齢の段階的引き上げが施行され、2年ごとに1歳ずつ定年年齢が引き上げられ、2031 年4月には65 歳定年となります。

総務省消防庁は、消防職場は加齢による職務遂行の困難から適切な配置を検討すべき職種との認識のもと、「定年引上げに伴う消防本部の課題に関する研究会」を立ち上げ、2022年11月に「定年引上げに伴う消防本部の課題に関する研究会報告書」を公表しました。

報告書では、消防車両や個人装備品などの資機材は小型軽量化、省力化を進めることや筋力トレーニングの推奨等が盛り込まれましたが、視力、聴力などの神経系や瞬時の判断力の維持は、資機材の軽量化やトレーニングによる鍛練で対応できるという類のものではありません。

各消防本部における消防力・救急力を維持するとともに、高齢層職員が負担なく従事できる職務を整備するなど、誰もが働きやすい職場にむけて、個々の職員の職務の実態等を丁寧に把握した上で、必要な措置を講じるよう求めていかなければなりません。

 

 

2. 運動の基本方向

【消防職員の団結権回復にむけた対応】

(1)団結権問題の経過

全消協は、1977 年の結成以来、団結権回復にむけた運動を一貫して続けてきました。政府は、ILO(国際労働機関)第87号条約第9条の「軍隊および警察に条約が規定する保障(団結権等)を適用するかどうかは各国の国内法令で定めること」とする規定について、消防は警察に含まれると解されることから、団結権の否認は「問題なしとした上で同条約を1965 年に批准した」としています。これに対し、1973 年のILO条約勧告適用専門家委員会報告は「消防職員に団結権が認められるよう適当な措置をとることを希望する」として、政府に対し消防職員への団結権の付与を求め、以降幾度にもわたって同じ指摘がなされてきましたが、団結権の否認が継続されています。

 

(2)消防職員委員会の経過と対応

1995 年の自治労委員長と自治大臣(当時)との政労合意により、消防職員の団結権問題についての当面の解決策として、「消防職員委員会」が創設され、1996 年から制度が施行されました。2005 年には「意見とりまとめ者」などの告示(制度)改正が行われました。その後、第 107 回ILO総会・基準適用委員会での議論も踏まえ、2018 年9月には「連名・匿名での意見提出」などを盛り込んだ告示(制度)改正が行われました。

さらに、これまで委員会の開催に関し、「毎年度の前半に1回開催することを常例とするとともに、必要に応じ、開催するものとする」とされていましたが、2025 年5月の告示改正では、委員会の開催について「毎年度1回以上開催するものとする。」と改められ、時期を問わず必要な時に開催されることが見込まれます。

これらの改正は、全消協が総務省消防庁と協議を重ね、制度改正へとつなげた成果といえます。

しかし、消防職員委員会は今なお運用における制度的課題が残されています。委員会制度は、職員個人の意見を提出・審議するものであるとともに、使用者を代表する消防長は委員会に参加せず、さらに審議結果を独断で処理するなど、消防職員の団結権の否認を代償するものでは到底ありませんが、引き続き実質的な集団的労使関係制度へと近づけていくための制度の見直しが必要です。

全消協は、緊援隊の災害派遣手当における経験を踏まえ、職員委員会制度の積極的かつ統一的な活用を通じて、現場の実践から判明する制度の欠陥の見直しを求めるとともに、成果の全国的な共有をはかるための取り組みを推進します。

 

(3)PSIへの加盟と全消協の取り組

2007 年、消防職員の団結権回復の運動を国外からも協力を得るため、全消協はPSI(国際公務労連)に加盟しました。

PSI加盟は、以下の点におけるメリットがあり、団結権の回復にむけた取り組みの一つとして重要な役割を果たしています。
① 東アジアやアジア太平洋地域における消防職員のネットワークが構築できること。
② PSI加盟の世界各国の労働者に日本の消防職員の労働基本権の制約状況を周知し、連帯と協力を求めることができること。
③ PSI活動を通じて、ILOをはじめとする国際機関に議論を持ち込むことができ、ILOから日本政府に外圧
をかけることができること。

 

(4)公務員制度改革法案の経過とILOの対応

2009 年9月、民主党(当時)を中心とする政権が発足し、公務員の労働基本権問題や労使関係制度の改革にむけて本格的な作業が始まり、消防職員の団結権は、政治的に初めて具体的な回復への動きが起こりました。

2010 年 10 月に発足した「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」で議論が重ねられ、「政府におい
て検討の上、決定されるべき」とされました。そして、2012年11月には、消防職員への団結権付与を含む「地方公務員制度改革2法案」が国会へ提出されましたが、衆議院の解散により審議未了のまま廃案となりました。

歴史上初めて政府により消防職員に団結権が措置された関係法案が廃案となった後も、全消協は自治労や公務労協、連合、そしてPSIを通じて、ILOやITUC(国際労働組合総連合)などへの働きかけなど国際的な対策を強化してきました。その結果、公務員の労働基本権の回復、とくに消防職員や刑事施設職員への団結権付与などについて、2018 年に開催されたILO第 107 回総会の総会の基準適用委員会において第87号条約に関する個別審査が行われました。

総会基準適用委員会の議論において、政府は、団結権付与に関して従来からの「警察と同視」との見解を示し、消防職員委員会制度が定着しているとした上で、

①消防職員委員会の運用方針の改正を行うこと、

②新たに労働側との定期的な意見交換の場を設けることを明言しました。

そして、個別審査の結論・議長集約は、政府に対し、5つの課題(①自律的労使関係制度の検討、②消防職員委員会制度、③消防職員は警察と同視とする政府見解に関する協議、④刑事施設職員の団結権付与に関する分類、⑤人事院の手続の検討)を特定し、「勧告を実施するための期限付きの行動計画を社会的パートナーとともに策定すること」を求めました。

その後、全消協は、自治労と連携し2019 年 1 月に設置された「ILO議長集
約にかかる定期協議」の場で総務省、消防庁と11回にわたり、「消防は警察同視」の解釈を中心に議論を重ねてきました。

しかし、総務省、消防庁は「消防は警察の職務と同視される」とする見解を繰り返し、団結権付与については慎重に検討するという姿勢を崩しておらず、議論は今なお平行線となっています。

 

(5)ILO第112回総会と政府の対応

2024 年6月、ILO第112 回総会において、2018 年以来6年ぶりに日本の公務員の労働基本権の制約状況が基準適用委員会の個別審査の対象となりました。

当事国の労働者代表として発言した石上連合会長代行(自治労委員長)は、日本政府が2018年の個別審査における議長集約を意図的に無視し続けてきたことを指摘の上、2018 年の議長集約が提起した5つの課題の現状に言及し、日本の公務員の労働基本権問題の根本的かつ抜本的な解決にむけた政府の誠実な対応を導くよう、委員会での討議と断固とした結論を要請しました。

これに対し、政府は①消防職員・刑事施設職員は警察と同視されることから、警察職員と同様、団結権を有していないこと、②団結権を与えれば緊急事態などの対応に支障を来す、自律的労使関係制度の構築については、交渉コストの増加や労使交渉の長期化などさまざまな問題があるなどの理由をあげ、「団結権の代償措置として消防職員委員会制度の定着が図られている」などと述べ、依然として制度の維持を前提とする従前の主張を繰り返しました。

総会基準適用委員会における議長集約(結論)は、本事案が長期にわたるものであること、および直近では、2018 年に委員会で議論されたことについて留意、考慮した上で、日本政府に対し、消防職員の地位と労働条件の改善、刑事施設職員における団結権のあり方、自律的労使関係制度の検討などに関し、条約に沿って、労働者側と使用者側の団体との協議を行い、2024 年9月1日までに報告書を提出することを要請するものとなりました。

なお、日本政府は、協議の中で「各消防本部における消防職員委員会の運営状況を適切に把握しつつ、社会的パートナーを含む関係者とも協力しながら更なる運用改善に取り組んでいく。消防職員委員会を含め、消防に関する相互の理解を深めるべく、社会的パートナーとの定期協議を引き続き行い、一層の意思疎通に努めていきたい」との考えを述べています。

 

(6)12 回目の結社の自由委員会報告・勧告

2025 年に開催されたILO第113回総会後の理事会で、日本政府に対する12回目の結社の自由委員会報告・勧告等が採択されました。

今回の勧告では、「2002 年以来の再三の勧告にもかかわらず、公務員への労働基本権付与の問題が未解決のままであることを遺憾に思う。」との異例の指摘を行った上で、公務員が労働基本権を完全に享受することを確保するために、日本政府に対し、必要な法改正を採択するよう強く要請しています。

引き続き、自治労と連携し、ILO議長集約に伴う定期協議の場において、国との議論を進めるとともに、消防職員の団結権の回復にむけて、政府への対策と世論の形成をはかります。

 

(7)韓国の消防労働組合との連携

2021 年7月、韓国では消防職員に団結権および団体交渉権を付与しました。消防・救急における業務体制等が近似し、隣国でもある韓国において、業務や勤務条件の改善に団結権等が果たす役割を実践的に学ぶため、引き続き韓国の消防労働組合との連携強化をはかります。

 

(8)団結権の回復に関する国会情勢

民主党(当時)政権における政府による自律的労使関係制度の措置を盛り込んだ公務員制度改革関連法案の提出以降、計3回議員立法で国会に提出されてきましたが、いずれも審議未了、廃案となっています。

これらの経過を踏まえ、2022 年5月、立憲民主党は公務員制度改革PTを発足し、検討・議論を経て、2023年6月16日、国民民主党および社会民主党とともに、第 211 回通常国会に「公務員制度改革関連5法案(国家公務員法および地方公務員法等の改正法案)」を共同提出(議員立法)しましたが、2024年10月の衆議院の解散・総選挙により廃案となりました。

そして、2025 年6月5日に改めて衆議院に同法案を提出しました。

この法案は、消防職員について、民主党政権時の閣法やこれまでの議員立法で措置していた団結権に加え、協約締結権を措置するものとしています。また、刑事施設職員についても、新たに団結権および協約締結権を有する団体交渉権を措置することとしています。

法案の早期の審議入りと成立をめざし、引き続き粘り強く取り組みを進めていかなければなりません。自治労をはじめ、自治労消防政策議員懇談会(以下、「議員懇」)、PSI-JC(国際公務労連加盟組合日本協議会)、連合、公務労協とも連携し、団結権の回復にむけ、国会への働きかけを強めていきます。

 

 

【組織の強化・拡大】

全消協は、第37回定期総会で会員3万人体制を目標に掲げていますが、休会・脱会が後を絶たず、現在の会員数は約12,000 人にまで落ち込み、会員数の増加には至っていません。

そのため、これまでの取り組みを検証した上で、第43回定期総会において「新たな組織強化・拡大の取り組み(以下「組織強化・拡大アクションプラン」という)を策定し、活動を行うこととしました。

引き続き、各ブロックの情報交換、活動の共有を行うとともに、自治労単組・県本部と連携し、組織化に取り組みます。あわせて、適正な協議会組織運営についての取り組みを強化します。

 

 

【賃金・労働条件の改善 〜消防職員の処遇改善にむけた取り組み〜】

安心・安全の消防サービスを提供し続けていくために、全消協は、消防職員の賃金・労働条件の向上をめざして取り組みを進めてきました。 しかし、結成当初からの重要課題である無賃金拘束時間については、いまだ解決されていません。

無賃金拘束時間の解消を、賃金問題のみならず勤務形態(勤務時間)を含めた消防職員の働き方改革と位置付け、具体的で現実的な対策を講じていく必要があります。

そのため全消協は「消防職員の処遇改善にむけた対策委員会」を設置し、自治労本部や自治労顧問弁護士の協力を得ながら、法令に基づく運用の徹底から、最終的には無賃金拘束時間の解消を目標に取り組み方策を検討し、課題解決にむけた活動を始めています。

また、緊援隊の派遣手当について、総務省消防庁の調査(2025 年1月1日時点)では、7割の消防本部で派遣手当の新設(予定も含む)などの条例が整備されましたが、約3割の消防本部では、いまだ条例整備が未定もしくは検討されていない状況にあります。

緊援隊の出動は、総務省消防庁長官の指示等により行われるものであり、派遣に伴う手当等の諸条件は、すべての消防本部において統一されるべきです。

全消協は、2024 年度から大規模災害における「災害派遣手当」の増額(最低目標:日額 2,160 円)、時間外勤務手当の支払いなど、すべての単協で消防職員委員会に意見を提出する取り組みを進めてきました。

自治労の「県本部消防担当者会議」でもこの取り組みが共有されており、今なお災害派遣手当の新設・増額の取り組みができていない単協については、自治労県本部・単組の協力も得ながら、処遇改善・格差是正にむけて取り組みます。

そのほか、総務省消防庁に対しては、増え続ける救急需要を踏まえた消防財政の確立を求めます。

人事評価制度については、公正・公平な運用の確立はもとより、消防職場に適した人材育成や長期的なモチベーション向上に資する制度設計となるよう、各単協において取り組みを進める必要があります。

 

 

【女性消防吏員の活躍推進への対応】

男女共同参画社会基本法の制定から 25年以上が経過する中、政府は第5次男女共同参画基本計画や育児・介護休業法の改正、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(通称:LGBT理解増進法)など、ジェンダー平等社会の実現にむけた法整備を進めてきています。

また、さまざまな分野で女性が活躍する場面が増える中にあって、防災分野でも女性目線による復興および防災対策の重要性が改めて認識され、ジェンダー平等社会の実現が災害に強い社会づくりであるともいわれています。

しかし、「WEF(世界経済フォーラム)」がまとめた男女格差報告(ジェンダーギャップ指数 2025)の調査によると、調査対象国 148 ヵ国中、日本は前年と変わらず 118 位となっています。

今回は「経済」の項目の改善で若干順位が前進したものの、「政治」の分野では 125 位に後退しており、一向に男女格差が解消する兆しはありません。

先進国の中でも依然としてジェンダー格差が大きく、働きやすい社会とはいえない状況です。

総務省消防庁は、女性消防吏員の活躍推進を掲げており、2015 年に全国の消防吏員に占める女性消防吏員比率を2026年当初までに5%に引き上げるという数値目標を設定し、計画的な女性消防吏員の増員を推進してきました。

着実に採用は進んではいるものの、最終目標年である2026 年に到達は不可能です。女性消防吏員の活躍推進には、採用だけでなく、ハラスメントの解消をはじめ、女性が働き続けられる環境整備も必要です。

2025 年4月 21 日に立ち上げられた総務省消防庁の「消防本部における女性活躍推進に関する検討会」の議論の動向を注視しつつ、全消協は女性連絡会を軸に、現場の女性の声を総務省消防庁要請の機会などを通じて訴え、女性消防吏員の活躍推進の達成にむけて取り組みを進めていきます。

 

【労働安全衛生の確立】

全消協は結成以来、継続して消防職場の労働安全衛生について取り組んできました。

消防業務は、深夜勤務を伴う交替制勤務や長時間拘束などの過重労働であり、有事の際には、危険な現場に赴くことが求められます。

労働安全衛生法を踏まえ、安全で快適な消防職場に即した職場環境を整備する取り組みを進めます。とくに、2025 年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、事業者の熱中症対策の強化が義務化されました。

消防職員の安全を確保するため、消防職場における必要な熱中症対策について課題を抽出し、情報の共有化を行います。
さらに、職場内外を問わず、すべてのハラスメントを撲滅することを重要な課題として、取り組みを進めます。

 

 

【定年引き上げへの対応】

総務省消防庁の研究会が取りまとめた「定年引上げに伴う消防本部の課題に関する研究会報告書」で指摘された課題について、全消協は、高齢層職員が安心・安全に働くことができる職場環境の整備を重要課題の一つとして位置付け、取り組みを進めます。

あわせて、消防職場の働き方について、あるべき姿の提起を行います。

 

 

 

Ⅱ活動方針

(1) 団結権回復にむけた取り組み

全消協は、1977年の結成以来、最大の目標である団結権の回復にむけて取り組みを続けてきました。

2009 年9月には民主党(当時)を中心とする政権が発足し、「消防職員の団結権のあり方に関する検討会」が設置され議論が活発になりました。

しかし、2012 年 11 月に法案が閣議決定されたものの、衆議院の解散により審議未了のまま廃案となりました。

こうした中にあっても全消協は、団結権の回復にむけて国内外で活動を展開してきました。

2018 年5月末から開催された第107回ILO総会・基準適用委員会において日本の公務員の労働基本権問題が個別審査され、報告書が採択されました。また、2025 年に開催されたILO第113 回総会後の理事会で、日本政府に対する12 度目の結社の自由委員会報告・勧告等が採択されました。

今回の勧告では、「2002 年以来の再三の勧告にもかかわらず、公務員への労働基本権付与の問題が未解決のままであることを遺憾に思う。」との異例の指摘を行った上で、公務員が労働基本権を完全に享受することを確保するために、日本政府に対し必要な法改正を採択するよう強く要請しています。

第107回ILO総会での指摘を受けて日本政府が社会的パートナーと協議をすると宣言したことで開始した「ILO議長集約にかかる定期協議」は、現在まで 13 回協議を重ねてきました。政府は一向に考えを改めようとしませんが、引き続き、全消協は自治労とともに団結権の回復にむけた協議に主体的に参画していきます。

また、2025 年6月5日に立憲民主党は、社会民主党、国民民主党と共同で「公務員制度改革関連5法案」を衆議院に提出しました。この法案は 2023 年に提出した法案と同様に、消防職員の団結権の回復に加え、協約締結権の付与についても措置することとしています。

2021 年7月に韓国では、消防職員の団結権および団体交渉権を認めました。現在、- 8 -ILO87 号条約批准国さらにはOECD加盟国の中で、唯一日本だけが消防職員の団結権を認めていない状況であることから、消防職員の団結権の回復を含むすべての公務労働者の労働基本権の回復にむけて、議員懇との連携やPSIーJCでの活動を通じ、連合・公務労協とも連携し、取り組みを継続していきます。
引き続き、自治労と連携し、地域公共サービス分野で働く同じ労働者として、共通の問題意識の下、ともに活動する体制を構築します。

 

 

【労働基本権の回復にむけた活動の強化】

1. ILO議長集約にかかる定期協議へ自治労とともに主体的に参画します。

2. 消防職員の団結権の回復を含む公務員の労働基本権の回復にむけ、自治労をはじめ連合・公務労協との連携をより一層密にし、取り組みを進めます。

3. 議員懇に支援と協力を求め、政府・総務省消防庁などへの問題提起など、団結権の回復はもとより、働きがいのある職場をめざした活動を展開します。

4. 消防職員の声を政府に届けるため、自治労組織内議員および協力議員を支援します。

 

 

【労働基本権の回復にむけた国際連帯の強化】

5. 消防職員の団結権の回復にむけ、国内法令の整備等、積極的な行動を起こさない日本政府に対して、PSI-J
Cでの活動を通じ、国際的な機運が高まるよう取り組みます。

6. PSI-JCの活動を通じ、他産別との交流を深め、加盟する医療労働者等との情報交換を行うとともに、救急
現場の現状を発信します。

 

 

【自治労への合流を見据えた連携強化】

7. 全消協は、引き続き団結権の回復を見据え、自治労に組織合流することを前提に具体的協議を重ね、これからの
組織のあり方について共通認識を深めます。

8. 全消協は、自治労本部と引き続き連携を深め、県消協・単協においては自治労県本部・単組とより一層の連携を深めます。

 

 

(2) 組織強化・拡大の取り組み

全国720消防本部、約16万人の消防職員のうち、全消協加盟の単協数は183、会員数
は約12,000人で、組織拡大は道半ばの状況です。新型コロナウイルスの感染拡大によ
る協議会活動の停滞、協議会活動の必要性を見出せずに会員離れが加速化、また、組
織の力量に違いがあることから、地域実情にあわせた施策を検討します。
目標の「会員3万人体制」達成のため、「組織強化・拡大アクションプラン」に基
づき、単協の加入率過半数をめざし、各ブロック・県・単協活動の後押しを行い、組
織強化に取り組みます。組織拡大については、全消協幹事が中心となり、ブロック、
県消協役員とともに自治労と連携し、未組織本部への働きかけを行います。
あわせて、隣接するブロックと協力して情報の共有を行い、オルグ活動の活性化を
めざします。ウェブでのメリットも活用しながら、性差、世代、地域を越えた会員交
流・人材育成に努め、女性連絡会・ユース部の活動をさらに推進するとともに、全世
代が参画しやすい協議会活動および適正な組織運営を行い、魅力ある協議会活動を展
開します。

 

 

【組織強化・拡大方針について】

1. 組織強化・拡大アクションプランの見直しを行い、多くの意見を集約します。
また、組織強化・拡大事例の共有を行い、リニューアルされたホームページ、組織化マップ、SNSを活用して単協・県消協・各ブロックと連携した組織強化・拡大活動に取り組みます。

2. 全消協幹事が中心となり、ブロック内でより積極的な組織強化・拡大活動を行
い、魅力ある協議会活動を展開します。

3. ウェブを活用した取り組みを強化し、情報の共有化をはかります。

 

 

【自治労本部との連携】

4. 自治労とともに、既存単協の組織強化や未組織消防職場への組織拡大にむけたオルグ活動の環境を整備します。また、じちろう共済への加入をオルグ活動に活用します。

5. 2025年2月に実施した議員懇と全消協加盟単協との意見交換を踏まえ、単協・県消協は地元議員とのさらなる連携を深め、各消防職場の課題に取り組みます。

 

 

【自治労県本部・単組との連携】

6. 自治労県本部・単組と県消協・単協は、組織強化・拡大にむけて連携を深め、下記の取り組みを進めます。

① 消防職場の実態や問題点などを共有し、現状の打開策を協議します。

② 自治労各県本部に「消防組織化対策委員会」の設置・継続を働きかけ、未組織消防本部の組織化を推進します。

 

 

【協議会活動を担う人材の育成】

7. 単協において、会員が積極的に活動に参加するよう促します。また、未組織の-59消防職場へのオルグ活動を行うため、全役員がオルガナイザーの役割を担う必要があることから、スキル向上をめざします。

8. 協議会活動を担う人材育成のため、労働講座・研究集会等で出された意見を反映させ、問題の所在と課題、あるべき姿の提示から解決の方向性を提起できる能力の開発をめざし、各種学習会・講座を開催します。

9. 女性・ユース世代が各ブロック等で学習会を開催するなど、自主的な活動を後押しし、協議会活動を担う人材育成に努めます。

 

 

【適正な組織運営について】

10. 消防職員協議会の適正な組織の運営について情報共有を行います。

 

 

【全消協PR活動について】

11. SNSに加えて、オルグパンフレット(2025年改定)を活用し、会員ならびに未組織消防職員へ全消協活動について広く情報発信を行い、組織強化・拡大につなげます。

 

 

 

(3) 賃金・労働条件改善への取り組み

住民の安心・安全を守るためには、消防職員の勤務・労働条件の向上は欠かせません。しかし、全消協結成からの課題である無賃金拘束時間は、いまだに解消されていません。

一度出動となれば、過酷な現場活動に従事するにもかかわらず、2003年に総務省消防庁が発出した206号通知を根拠に、休憩中の出動を事後において休憩時間を繰り下げることにより、時間外勤務を正規の勤務時間とし、処理できない時間のみ時間外勤務として扱う恣意的な運用をする本部もあります。さらに、2011年の広島高裁判決では、消防職員は休憩時間の自由利用の原則が排除されていることを根拠に、労働時間性を否定しました。現行の法制度および運用上の矛盾点を整理し、制度改善や運用の是正を国および関係機関に対して強く要請します。

また、無賃金拘束時間の解消を賃金問題のみならず、勤務形態を含めた消防職員の働き方改革と位置付け、具体的で現実的な対策を講じていく必要があります。この課題解決をより強力に推進するため、全消協が設置した「消防職員の処遇改善のための対策委員会」において、自治労および自治労顧問弁護士・公務労協から協力を得ながら改善にむけて取り組みを進めます。

大規模災害の発生時には、総務省消防庁長官の指示等に基づき、各地の消防本部からの応援者で構成される「緊援隊」が被災地に派遣されています。緊援隊は命の危険もある中で、被災地で同じ業務を行っているにもかかわらず、派遣元の消防本部によって特殊勤務手当の額や支給条件に違いがあり、さらに手当支給の条例規定がないため、全く支給されていない消防職員も存在しています。また、時間外勤務手当の支給も派遣元消防本部ごとに取り扱いが異なり、格差が生じています。

全消協は、地方公務員法が規定する給与の均衡の原則に反する消防本部間の格差解消と同一労働同一賃金の実現をめざし、処遇改善に取り組みます。

次に、救急件数が増大の一途をたどり、救急要請が逼迫している状況下において、長時間におよぶ対応や連続出動により、休憩時間も十分に取れず、救急隊員等に身体および精神的な不調が出現し、過労の蓄積による事故も発生していることから、全国の消防本部に対して、労務管理の徹底をはじめ、適正な勤務体制を構築するよう助言することを総務省消防庁に求めます。

また、定年が段階的に引き上げられていますが、消防職場は肉体的・精神的に負担が大きい職種であることから、高齢層の消防職員が健康で安心・安全に働き続けられる労働条件の整備を重要課題として取り組みます。

さらに、人事評価制度が消防職場にも導入され、運用されています。この制度は、賃金、昇給・昇格に直接関わることから、公平・公正な運用の確立と消防職場に適したものとなるよう求めます。

全消協は、消防財政の不当な緊縮・人件費削減を主眼とした不合理な勤務・労働条件にならないよう、情報共有をしながら対応を検討していきます。

 

 

【賃金・労働条件の改善】

1. 消防職員の勤務体制や賃金・手当等について、均衡の原則を踏まえ、消防職員の労働のあり方およびその評価等について研究し、改善にむけた施策を検討します。

2. 改善にむけた施策を検討するにあたり、会員から幅広く意見を聴き、解決方策等を検討します。

3. 広域再編時には、不利益を被ることがないよう、給料表・手当の統一を求めます。あわせてこれを契機に、公安職給料表の適用を求めます。

 

 

【無賃金拘束時間の解消について】

4. 結成当初から課題となっている無賃金拘束時間は、休憩時間と称しておけば、何時間でも無賃金で職場に拘束できるものです。全消協は、消防職場の労働時間の取り扱いについては国に改めるよう求め続けてきていますが、無賃金拘束時間の解消は、大規模な予算措置を必要とすることから、さまざまな課題解決の中でも最も困難といえるものです。そのため、無賃金拘束時間の解消を賃金問題のみならず、勤務形態を含めた消防職員の働き方改革と位置付け、「できることから始めていくこと」を基本に、処遇改善の取り組みを推進することとします。

また、全消協は「消防職員の処遇改善のための対策委員会」を設置し、自治労および自治労顧問弁護士、公務労協の協力を得ながら、解決方策等を検討します。

5. 消防職員の処遇改善にむけて、以下の取り組みを行います。

① 急激に増加している救急需要に対して、救急隊員の業務負担の軽減等を目
的に導入が進められている「日勤救急隊」について、人員増を基本に、すべての消防本部における導入・拡充を求めます。

② 約6割の消防本部が2部制交替勤務となっていることから、当該職員の業務負担の軽減をはかることを含め、人員増を基本に、「3部制交替勤務」の実現をめざします。

③ 「職務の複雑、困難および責任の度合い」という観点から、公安職給料表が適用されるべきであるにもかかわらず、2割弱の消防本部にとどまっている実態を踏まえ、「公安職給料表」の適用を求めます。

④ 休憩(仮眠)時間中の出動を「事後的に正規の勤務時間内とみなす措置」の実態を把握し、出動時の時間外勤務手当の全額支給を求めます。また、休日勤務手当(休日給)の支給実態を把握し、法令に基づく適正な支給を求めます。

6. 上記の取り組みとともに、「消防職員の処遇改善のための対策委員会」において、以下について検討します。

① 「勤務形態の見直し」に関する考え方

② 「休憩(仮眠)時間勤務への定額手当の適用」について、対象とする手当の特定とその論拠等

③ 労働時間の該当に関する民間との相違、206号通知(2003年総務省消防庁)の問題点、類似する職務に従事している国家公務員との関係、ノーワークノーペイ原則との関係等をはじめとする法理論的な諸問題

7. 単協・県消協において、人事委員会・公平委員会に対する措置要求、または訴訟などの動きについて情報収集に努め、課題を共有します。

 

【ワークライフバランスの推進】

8. 職員一人ひとりが、やりがいや充実感を感じながら働き、職務上の責任を果たすとともに、ライフイベントに応じた働き方が実現できるようワークライフバランスを推進します。

 

 

【現行の勤務制度上における改善】

9. 地方公務員法第58条の規定により、消防職員には労働基準法第32条の2で規定される「一箇月単位の変形労働時間制」しか適用になりません。単協は、消防当局に対して、労働基準法等の遵守および勤務時間条例等との整合性のとれた運用を求めるとともに、それぞれの消防職場において、次の点について改善を求めます。

① 変形期間の始期と終期を明確にした勤務割を行うこと

② 各職員の各日の勤務について、正規の勤務時間および休憩時間位置を明確にすること

③ 非番・週休日における常態化した業務命令を見直し、通常勤務の中で業務遂行できるよう、体制の整備をはかること

④ 非番・週休日の業務従事に際して、時間外勤務手当の支給対象を明確にした上で勤務命令を出すこと

⑤ 週休日の労働に対して、安易に週休日の振替等の運用を行わないこと

⑥ 条例等で定める休業・休暇が取得しやすくなるよう、必要な措置を講ずること

⑦ 勤務時間の明確化をはかり、休憩時間内の労働(出動など)に対して、時間外勤務手当を支払うこと

⑧ 常態化した時間外勤務を撤廃し、適正な人員配置の下、時間外勤務を縮減すること。また、サービス残業を廃止すること

 

 

【緊援隊の災害派遣にあたっての取り組み】

10. 総務省消防庁に対して、次のことを求めます。

① 緊援隊の派遣に関するすべてのことについて、国は責任を果たすこと

② 派遣された隊員の処遇のあり方・内容について例示するとともに、派遣時の職員の身分、勤務の態様、特殊勤務手当の支給対象となる活動およびその額について例示し、各自治体に対し適切に助言すること

11. 派遣における処遇について、情報収集・提供を行います。

12. 派遣にかかる手当等が支給されるよう以下の通り取り組みます。

① 派遣手当等が支給されていない単協は、手当の新設を求めます。

② 派遣手当等がすでに支給されている単協は、手当の増額(最低目標:日額2,160円)を求めます。

13. すべての単協で消防職員委員会に処遇改善にむけて統一した意見を提出します。提出に際しては、自治労県本部・単組の協力も得ながら、取り組みます。

 

 

【再任用制度と定年引き上げへの取り組み】

14. 全消協は、高齢層の消防職員が健康で安心・安全に働ける職場環境の整備を重要題として、消防職場の働き方についてあるべき姿の提起を行います。

15. 定年引き上げに関する消防職場の課題について、情報収集・提供を行います。

16. 単協は、暫定再任用職員の取り扱いについて、以下の点に取り組みます。

① 職員定数の枠内ではなく、定数外職員として任用するよう求めます。

② 任命権者に対して、本人の意向を踏まえた運用を求めます。

17. 単協は、定年引き上げを踏まえた労働条件や、健康で働きやすい職場環境となるよう、それぞれの消防職場において次の通り働きかけを行います。

① 職員の意向や希望も踏まえ、勤務体制や業務内容を決定すること

② 職員の昇任・昇格、採用に影響を及ぼさないようにすること

③ 健康管理・安全管理・衛生管理など、必要な環境整備を行うこと

 

 

【消防職場の人事評価制度の取り組み】

18. 消防職員の賃金、昇給・昇格に大きな影響を与える人事評価制度の運用については、恣意的な評価がされない公正・公平な運用の確立とともに、消防職場に適したものとなるよう取り組みを進めます。

 

 

 

(4)労働安全衛生の確立

労働安全衛生法は、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことを目的とし、安心・安全な職場の実現をめざして制定されたものです。私たち全消協は、公務上の犠牲者を出さないとの信念の下、法の趣旨に基づき、これまで以上に労働安全衛生体制の確立をめざし、安全で快適な職場環境の整備に取り組んでいかなければなりません。

消防業務は深夜勤務を伴う交替制勤務や長時間拘束などの過重労働であり、有事の際には危険な現場に赴くことが求められるなど、公務内外における殉職者や負傷者の発生割合は、行政職員と比較して高い水準となっています。そのため、休息を十分にとれる体制や、安全に災害現場で対応するために資器材や設備管理の見直しなど、公務災害を発生させない安全管理体制の確立に取り組みます。なお、公務災害が発生した際には、公務災害認定を勝ち取れるよう助言等を行います。

また、定年引き上げに伴い職員の高齢化が見込まれます。高年齢者は身体機能が低下すること等により、若年層に比べ労働災害の発生率が高く、休業も長期化しやすいことがわかっています。労働安全衛生法が改正され、2026年4月から高年齢者の労働災害防止をはかるため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずる努力義務が課されることになります。消防職員が安心して働き続けられる働き方の検討、災害現場や訓練時の安全管理体制の確立について、今後も総務省消防庁等へ働きかけます。

さらに、近年の気候変動により、2025年6月1日から事業者の熱中症対策の措置が義務化されました。安全に災害現場で対応するため、資器材や設備管理の見直しなど、公務災害を発生させない安全管理体制の確立に取り組みます。

大規模災害や傷病者が多数発生する事件・事故の対応、日常的な災害対応や劣悪な職場環境等により、消防職員が心身ともに不調等を訴える例が多く報告されています。そのため、各職場における相談窓口の設置やメンタルヘルス対策を求めます。あわせて、労働安全衛生法改正により、従業員50人未満の企業においても2028年5月までにストレスチェックが義務化されることから、すべての消防本部において適切に実施されるよう求めます。

全消協は、2012年の労働講座から「すべてのハラスメント一掃宣言」を掲げていす。ハラスメントは相手の尊厳や人格を否定する行為であり、職員の士気低下や職場環境の悪化につながることから、メンタルヘルス対策とすべてのハラスメントの撲滅を重要な課題として、「被害者」も「加害者」も出さないよう取り組みます。

 

 

【危険職種指定をはじめ法令改正に対する取り組み】

1. 労働安全衛生法では、消防職場は安全委員会の設置・安全管理者等の選任が義務付けられていません。危険職種指定をはじめとする一連の法令改正について、自治労と連携し、議員懇の協力も得ながら、総務省消防庁を通じて厚生労働省に対し改善を行うよう求めます。

 

 

【労働安全衛生法に基づいた取り組み】

2. 労働安全衛生法の趣旨を活かし、民主的で職員一人ひとりが積極的に参画できる労働安全衛生活動を推進するため、単協は、消防長および各自治体首長に対して、次のことを求めます。

① 衛生委員会等の委員の選出や会議において、民主的な運営を行うこと

② 現場活動を含めた職場点検活動を行うこと

③ 職場点検活動で得た問題点は、衛生委員会等で協議し、消防長等は改善策を検討すること

④ 訓練中および現場活動で想定しうる災害に対処するための必要な情報の提供・安全衛生教育の徹底、資器材の整備充実をはかること

⑤ 職員の健康診断については、労働安全衛生法に基づいた健康診断を業務の一環として確実に行わせるとともに、その結果を踏まえ適正に対応すること

⑥ 衛生委員会等へのすべての世代参画を推進し、「誰もが担う安全衛生活動」を確立すること

⑦ 消防職員の勤務実態において、労務環境の充実は必要不可欠であるとの認識に立ち、食堂や休憩室、個人のプライバシーが守られる仮眠室の個室化等の整備を行うこと

⑧ 労働安全衛生法の改正を踏まえ、消防職場に則した対応を行うこと

 

 

【公務災害対策】

3. 公務災害が発生しないよう、すべての消防本部で安全管理マニュアルを策定し、安全管理体制を確立するよう取り組みます。また、各公務災害の事例を共有することで、質の高い安全管理がはかられるよう努めます。

4. 公務災害補償制度は自己申告制となっていることから、職員側が申告しなければ公務災害認定を受けることはできません。単協・県消協は、公務遂行中や公務に起因して発生したと思われる死亡・傷病、また、過重労働に伴う内因性疾患について、単組・県本部と連携をはかりながら、公務災害認定請求を行うよう取り組みます。

5. 自治労と連携し、公務災害認定基準の改善を求めるとともに、被災者立証制度の抜本的見直しにむけて取り組みます。

6. 職員が療養する必要が生じた場合、安心して治療に専念できる体制づくりを求めます。また、職場復帰をする前には、慣らし勤務や就業場所・業務内容の変更、規則の制定による段階的な職場復帰ができるよう、健康に配慮した体制づくりを求めます。

7. 単協・県消協は高齢層職員の労働災害防止をはかるため、高年齢者の特性に配
慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう求めます。

 

 

【メンタルヘルス対策】

8. 単協・県消協は、メンタルヘルス対策として、次のことに取り組みます。

① メンタルヘルスの基礎教育(セルフケア・セルフチェック)と消防本部による相談・カウンセリング体制の充実や慣らし勤務等の職場復帰に関する体制整備(ラインケア)の充実を求めます。

② メンタルヘルス問題を職場内で気軽に話し合える環境づくりを進めます。また、人権の尊重・プライバシーの保護を基本として、カウンセリング体制の充実を求めます。

③ 本人や家族または職員同士で惨事ストレスについて理解し、心身の変化を早期に察知できるよう、研修・担当職員の養成を求めます。また、メンタルヘルスの専門家を活用できるよう関係機関等と協力関係を築きます。

9. 今後、すべての消防本部で、ストレスチェックが義務化されます。調査を実施し、結果に基づき、衛生委員会等で職場環境の改善について協議を進めるとともに、消防本部に対して適切な対応を求めます。

 

 

【メンタルヘルス対策】

10. 全消協は、消防職場におけるハラスメントの撲滅をめざし、次のことに取り組
みます。

① 全国の実態を把握するため、全消防職員を対象にハラスメント実態調査を行うよう、総務省消防庁に求めます。

② すべてのハラスメントについて職場における状況を把握・分析するとともに、必要に応じて総務省消防庁等への働きかけを行います。

11. カスタマーハラスメントをはじめ、業務に付随するすべてのハラスメントについて職場における状況を把握するとともに、必要に応じて総務省消防庁等への働きかけを行います。

12. 単協・県消協はハラスメント対策として、次のことに取り組みます。

① 2017年に総務省消防庁が発出した「消防本部におけるハラスメント等を撲滅するための、消防長の宣言等による意思の明確な表明について」を踏まえ、職場においてその宣言が確実に履行されるよう、消防長に求めること

② 会員相互の連帯を深め、職場内におけるすべてのハラスメントの防止にむけて取り組むこと

 

 

【自治労との連携】

13. 消防職場の労働安全衛生活動を推進するため、自治労主催の安全衛生集会等へ積極的に参加し、各消防本部での活動に活かします。

14. 自治労作成の「公務災害認定への取り組みマニュアル」を活用し、取り組みを強化します。

 

 

 

(5) ジェンダー平等の取り組み

ジェンダー平等とは、世界共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の1つで、一人ひとりの人間が、性差にかかわらず、平等に責任や権利の機会を分かち合い、あらゆる物事を一緒に決めることができることを意味しています。

消防職場においても、女性消防吏員の活躍推進について、2015年7月に消防庁次長通知が各都道府県知事あてに発出されるなど、積極的な取り組みが求められています。しかし、女性消防吏員は6,124人(2024年4月1日総務省消防庁調べ)で、消防吏員全体の3.7%にとどまっており、目標としていた2026年度当初までに女性消防吏員5%までの引き上げ達成は不可能な状況で、女性の採用がない消防本部は85本部(11.8%)となっています。

女性消防吏員の採用や職域の拡大を推進することが喫緊の課題となっており、施設や資器材など男女ともに働きやすい職場環境を整え、職場へのジェンダー平等の啓発やすべてのハラスメントの防止にむけた教育を実施し、いまだ続く「男職場」を改革することも必要です。

全消協は、差別を許さず人権の尊重を掲げ、ハラスメント等の課題解決に取り組みます。また、ジェンダー平等参画は、組織活性化の要であり、社会全体の課題であることを認識し、すべての消防職員があらゆる分野で活躍できる組織づくりを推進していきます。

 

 

【ジェンダー平等の推進】

1. 男女共同参画社会基本法を踏まえ、職場におけるジェンダー平等の推進にむけて取り組みます。

2. 女性消防吏員のさらなる積極的な採用と職域の拡大等を推進するため、労働条件等調査を精査し施設や資器材の改善など、環境整備を求めます。また、男女間の格差を是正し、ジェンダー平等の職場づくりを推進します。

3. 人事院の「妊娠・出産・育児・介護と仕事の両立支援制度の活用に関する指針」を参考に、妊娠・出産・育児・介護を行う職員の両立支援制度を研究・活用します。

4. 育児介護・休業法および地方公務員の育児休業等に関する法律の改正にあわせて、各自治体の条例・規則もそれを踏まえた内容となるよう求めます。

5. 地方公務員共済制度・事業について、両立支援策や福祉事業などを充実するよう、自治労と連携し対策を進めます。

6. 誰もが働きやすい職場環境をめざすため、消防職員委員会や衛生委員会等への女性職員の参画を推進します。

7. 全消協は、総務省消防庁が設置した「消防本部における女性活躍推進に関する検討会」の検討状況を注視するとともに、総務省消防庁に対し、必要に応じて課題提起を行います。

8. LGBTQ+当事者が職場において不利益を受けないよう注視し、職場環境の改善を求めます。

 

 

【誰もが参加しやすい全消協づくり】

9. あらゆる世代の会員に全消協活動への参加を促す観点から、以下の事項に取り組みます。

① 全消協が主催する各種行事に女性枠を設けます。

② 育児を行うすべての会員の参加を促すため、会場周辺の託児所の利用を補助します。

③ ウェブ会議システムを活用し、参加しやすい開催方法を模索します。

10. 性別を尋ねる必要がある場合の結果公表については、アウティングとならないように注意します。

 

 

【国際的な活動におけるジェンダー平等の推進】

11. ワークルールの改善、ジェンダー平等、均等待遇の推進など、ILO条約等国際条約の批准および遵守の取り組みを強めます。

12. PSI規約に基づき、あらゆる活動でのジェンダー平等参画をめざします。

 

 

 

(6)消防職場の課題改善にむけた取り組み

市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生してから75年が経過しました。この間、消防制度や施策、消防防災施設等の充実強化がはかられ、消防業務は火災予防、消火、救急、救助、自然災害への対応や国民保護と広範囲にわたり、国民の安心と安全の確保に大きな役割を果たしてきました。

2025年2月から3月にかけて、日本各地において林野火災が多発し、岩手県大船渡市や岡山県、愛媛県で発生した林野火災では大規模に延焼拡大したことから、緊援隊が出動する事態となりました。

近年は大規模災害が毎年のように発生し、今後発生が危惧される南海トラフ地震や首都直下型地震、風水害等の大規模災害をはじめ、危険物火災等の特殊災害、国際的なテロ災害などのほか、さまざまな感染症への対策にむけ、一歩踏み込んだ施策が必要です。

国民の生命、身体および財産を守るという消防の責務はさらに大きくなっていますが、消防職場では業務量が増える一方、慢性的な人員不足により、職員個々の負担が増大し、さまざまな弊害が出てきています。

全消協は、消防防災体制のさらなる充実と職場環境の改善にむけ、消防職場が抱える課題を明確化し、効果的に消防業務を遂行できるよう、自治労や議員懇の協力を得ながら、関係省庁等に対して問題を提起し働きかけます。

 

 

【消防職場の課題の抽出】

1. 警防・救急・救助関係についての課題

① 大規模・複雑多様化する災害に対応するための消防力の不足

② 消防救助技術大会にむけた訓練など訓練全般における受傷事故の頻発

③ 救急出動件数の増加、各種ハラスメント等に伴う精神的・肉体的な負担の増大

④ さまざまな感染症に対する感染防止資器材、教育および医療機関や保健所等との連携

2. 予防関係についての課題

① 立入検査と違反是正に対応する業務量増加による負担

② 違反対象物にかかる公表制度および違反処理など、業務量の増加による負担

③ 多様化する防火対象物、度重なる法令改正に対応する業務負担

3. 消防業務全般についての課題

① さまざまな業務の増大に伴い、超過勤務が常態化している現状

② 世代交代に伴う専門的知識の継承・教育体制が確立されていない現状

③ 業務に関する資格・研修を自費受講・取得・更新している現状

④ 資機材・施設・庁舎等の計画的な整備が遅れている現状

⑤ 各種施策の実施にあたり、対応する現場の意見を聴取していない現状

⑥ 定年引き上げに伴う高齢層職員の働き方の問題

⑦ 消防職の志願者減少と中途退職者の増加の実態

 

 

【消防職場の課題改善にむけた取り組み】

4. 全消協は、総務省消防庁に対して、次のことを求めます。
① 「消防力の整備指針」に示した必要な人員を充足する財源を確保すること。また、現場実態に即した指針となるように必要な改定を行うこと

② 働きやすい消防職場の構築にむけ、必要な労働安全衛生体制に関する法整備および消防本部または職員が相談できる窓口を設置すること

③ 救急需要の増加および長時間にわたる出動に対し、労務管理の徹底をはじめ適正な勤務体制を構築するよう助言をすること

④ さまざまな感染症に備え、必要な資器材の確保および供給体制を構築すること

⑤ 救急受け入れ態勢の強化にむけ、医療機関との調整や連携強化をはかること

⑥ 救急の適正利用にむけた広報、全国一律の救急相談窓口の設置を行うこと

⑦ 条例の未整備および通知(消防消第247号令和6年8月1日)で示された基準額2,160円に達していない消防本部に対し、改めて緊援隊の災害派遣手当等の条例整備に関する助言を行うこと

⑧ 緊援隊の安全衛生面を改善し充実させること

⑨ 各種ハラスメントの撲滅にむけ、より実効性のある施策を講じること

⑩ ワークライフバランスの促進にむけ啓発すること

⑪ 男女がともに仕事と育児・介護を両立できるよう必要な対策を講じるとともに、各消防本部における好事例の取り組みを調査し、制度の活用にむけた情報共有を行うこと

⑫ 女性消防吏員のさらなる活躍推進にむけ、職域拡大および環境整備を講じること

⑬ 広域化の結果、職員間で労働条件の格差が生じている消防本部もあることから、必要な助言を行うこと

⑭ 高齢層職員が引き続き活躍し続けられるよう職域の拡大に関する助言、消防機器の改良および開発を進めること

⑮ よりよい消防行政の確立にむけ、全消協と今後も継続的な協議を行うこと

5. 全消協は、課題解決のため情報収集、提供および調査・研究を行い、課題の解決にむけて取り組みます。あわせて、各種会議等のさまざまな機会を通して、消防職場の課題を抽出します。

6. 単協・県消協は、消防当局および各自治体首長に対して、次のことを求めます。

① 人員および財源の確保にむけ、必要な対策を講じること

② 施設・庁舎や車両、資機材等の計画的な整備を行うこと

③ 心身の疲労回復、災害対応能力の低下および事故防止の観点から、適切な労務管理が実行できる体制づくりを強化すること

④ 災害対応能力、専門的知識を習得・伝達・継承できる教育体制を確立すること

⑤ 業務に関する資格・研修は、公費で受講・取得・更新できるようにすること

⑥ 増大する各種業務に対し、職員の負担が減るよう業務の効率化を行うこと

⑦ 定年延長職員と再任用職員の業務内容を明確化し、勤務が継続できる消防職場の環境づくりに努め、住民サービスの低下を招かない体制をつくること

⑧ 人員確保にむけて、消防の魅力を情報発信するとともに、選ばれる職場となるよう賃金・労働条件を向上させ、働き続けられる職場改善を行うこと

 

 

 

(7) 消防の広域化への対応

総務省消防庁は、2024年3月29日に「市町村の消防の広域化に関する基本指針」と「市町村の消防の連携・協力に関する基本指針」を改正し、消防の広域化の推進期限を2029年4月1日まで延長しました。

基本指針では、「消防広域化重点地域については、これまで以上に積極的に指定」すること、あわせて「消防の連携・協力についても推進していくもの」としています。この内容については、具体例が示されていますが、「効果的・効率的」との記述があることから、より良い消防行政を実現できるか注視していく必要があります。

2006年以降59地域において広域化が実現しています(811本部→720本部に減少 2006年~2023年)。直ちに広域化を進めることが困難な地域においても必要となる消防力を確保・充実していくため、消防事務の性質に応じて事務の一部について連携・協力(消防指令センターの共同運用含む)を推進することで、広域化を実現するための下地が作られるとしています。

高齢化の進展に伴う救急需要の高まり、大規模災害の激甚化・頻発化、感染症の拡大等の社会環境の変化に的確に対応する必要があります。広域化した場合のメリットやデメリットを考慮した上で、消防力の維持・強化のための消防体制の構築をはかる必要性と職員の採用や適正配置、業務効率化など根本的な解決を同時に進めなくてはいけません。

今後も、広域化を推進する場合には、消防本部の規模にかかわらず、地域の実情にあわせたものとなるよう関係機関等に提言するとともに、住民サービスの低下が生じることなく、職員の削減や人事異動を含めた労働条件の引き下げにつながることのないよう、関係消防本部の全職員の意向を踏まえた慎重な検討が必要です。先進事例での実績や効果および財政措置等に留意し、情報収集を継続します。

 

 

【全消協の取り組み】

1. 広域化の推進にあたっては、自治労と連携し、議員懇を通じて、地域の実情に即したものとなるよう総務省消防庁へ求めます。

2. 広域化までの経過や形態等に関する情報を収集し、その共有や提供を行います。

3. 広域再編を契機に、組織の強化・拡大につながるように取り組むとともに、単協の組織力が低下しないようにフォローします。

 

 

【広域再編の対象となった単協・県消協の取り組み】

4. 自治労県本部や協力議員とも連携しながら、各自治体当局に対し、消防職員の意見を聴取する機会の確保を求めることを提起します。

5. 消防組織の広域再編を検討する自治体に対して、次のことを求めます。

① 財源優先の広域化は避けるべきであり、再編された消防組織の財源を確保するため、構成市町村の負担(拠出)額が、地方交付税基準財政需要額の消防費額を下回らないこと

② 広域再編時には、不利益を被ることがないよう、給料表・手当の統一を求めること。統一にあたっては、公安職給料表を適用すること

③ 地域住民や現場の消防職員に対して積極的に情報を提供・開示し、意見を聴取する機会を設けること

 

 

 

(8) 質の高い消防サービスの実現にむけて

全消協は質の高い消防サービスの実現にむけ、消防力の地域間格差の解消や職員の職場環境改善などが必要であるとの観点から、現場実態に基づく要望書を取りまとめ、総務省消防庁に対して要請行動を行ってきました。また、新たな感染症対策をはじめ、定年引き上げに関する事項などの新たな課題についても現場の声を取りまとめ、総務省消防庁や国会議員等に直接訴えるなどの取り組みを推進してきました。

また、PSIは「質の高い公共サービス(QPS)」について、「質の高い公共サービスとは、質の高い労働条件下で働く質の高い労働者が提供するもの」と定義した上で、「質の高いサービスは人権」であり、「サービス利用者が常に質の高さを望めるような財源を伴ってこそ初めて提供が可能になる」との考え方の下、取り組みを展開してきました。これは、全消協がめざす目標や信念と同質であり、質の高い消防サービスの実現にむけて取り組みを継続していかなければなりません。

質の高い消防サービスの基礎となるのは消防力であり、その力の原点は消防職員であることはいうまでもありません。人員が充足され、継続した人材の育成がなされた上で、遺憾なく能力を発揮できるよう、車両や資機材、組織の体制、消防予算が必要です。しかし、自治体消防が整備すべき基準値は整備すべき目標となり、条例定数の削減や車両の最低人員が目標値に届かない中で運用している消防本部も見受けられています。また、従来の消防業務のほか、近年多発する自然災害や新たな感染症等への対応も求められており、消防職員への負荷は年々増大しています。

さらに、加齢困難職種とされながらも詳細な議論もされないままに定年が引き上げられたことにより、現状の体制で住民に対して必要な消防サービスを提供できるものか疑問を抱く状況です。

住民本位の消防行政のあるべき姿を実現するためには、十分な消防力を有し、すべての消防職員が安心して働ける職場環境が必要であり、その担保となる消防予算の充実を強く求めることが重要です。

全消協は、賃金・労働条件の改善だけではなく、住民からの信頼に応え、やりがいをもって仕事ができる環境の整備をめざし、「質の高い消防サービス」の実現にむけて取り組みます。

 

 

【質の高い消防サービスの実現にむけた取り組み】

1. 全消協は組織強化に努め、PSIの「質の高い公共サービス(QPS)」の趣旨を尊重し、次のことに取り組みます。

① 単協・県消協の取り組みを集約し、質の高い消防サービスの実現にむけ課題を提起します

② 定年引き上げに伴い消防サービスが低下しないよう研究を進め、課題を抽出し、議論されたことを情報共有します

2. 単協・県消協は、消防当局および各自治体首長に対して、次のことを求めます。

① 住民ニーズの把握に努め、地域住民と協働した活動を推進すること

② 単組・県本部と協働して、消防行政についての課題を情報発信し、地域住民と共有すること

③ 災害時における自助・共助の重要性について協議を行い、地域との連携をはかること

④ 新たな感染症への対応等も踏まえ、より一層地域の医療、福祉、保健、教育機関等と連携・協力して、質の高い消防サービスの実現をめざすこと

⑤ 定年引き上げに伴い、高齢層職員が安心・安全に働ける環境を整備すること

⑥ 消防サービスが低下しないよう定員管理を行うこと

 

 

【消防力の整備指針の取り組み】

3. 全消協は、自治労や議員懇と連携し、全国的な消防力に関する課題提起を行います。

4. 単協・県消協は、消防当局に対して、現在の消防力および整備すべき目標について、住民への十分な情報公開を求めます。

 

 

 

(9) 国際連帯活動の推進

我々の生活・仕事・協議会活動は、平和の上に成り立っています。世界中が平和で、多様性が受け入れられることで、人生を謳歌できる社会の実現にむけ、全消協は、国際連帯活動を推進していきます。

全消協は、2007年、消防職員の団結権回復の運動を国外からも協力を得るため、PSIに加盟し、ILOやITUC等への働きかけなどの対策を強化してきました。

2023年10月に開催されたPSI第31回世界大会では、「日本の公務員の労働基本権、消防職員の団結権・団体交渉権を求める」の決議案を提出したほか、「性と生殖に関する権利と女性の保護」および「ジョージアの救急隊員を復職させよ! 労働組合員への攻撃をやめよ!」の決議案で応援演説をするなど、日本における諸問題を世界に発信してきました。日本の消防職員の団結権回復にむけた活動は世界から注目されています。2025年9月に開催されるPSI第15回アジア太平洋地域総会(APRECON)において、消防職員の団結権回復をめざし、全消協の活動が加盟各国に波及していくよう国際連帯の活性化をはかります。

2024年に開催されたILO第112回総会の基準適用委員会で、日本の公務員の労働基本権の問題が6年ぶりに個別審査の対象となりました。基準適用委員会での審査は、加盟する178ヵ国の労働問題の中でとくに討議すべき優先順位が高い事項が選ばれるものです。さらに、2025年に開催されたILO第113回総会後の理事会で、日本政府に対する12度目の結社の自由委員会報告・勧告等が採択されました。これらは、国際連帯活動が実を結んだ結果であり、国内外において団結権の必要性などの実情を訴え続ける必要があります。

2021年7月、韓国では、消防職員に団結権および団体交渉権を認めました。消防・救急における業務体制等が近似している隣国の韓国における業務や勤務条件の改善に団結権等が果たす役割を実践的に学ぶため、全消協は、2024年3月に韓国公労総消防労組との交流・意見交換を行いました。その結果、韓国の消防では、無賃金拘束時間の解消やITを活用した救急搬送困難事案への対応など、日本の消防職員が抱えているさまざまな課題を解決していることがわかりました。今後も、定期的な交流・意見交換を行い、それらの状況を詳細に調査し、日本における課題の解決にむけた取り組みに活かしていかなければなりません。

全消協は住民の安心・安全を保障する「質の高い消防サービス」の実現にむけ、取り組みを推進してきました。同じくPSIも「質の高い公共サービス」を基本に、公務員の労働基本権確立を掲げています。

引き続き、より良い消防行政の構築と職員がやりがいをもって働くことのできる労働諸条件、そのための団結権の回復にむけた取り組みを国内外で推進すべく、PSIおよび韓国消防労組と連携し、活動を強化します。あわせて、すべての人が働きやすい消防職場づくりを推進します。

 

 

【PSI活動を通じての国際連帯の取り組み】

1. 引き続き、東アジアやアジア太平洋地域における消防職員とのネットワークの連携をはかります。

2. 団結権問題について、PSI活動の場を通じて強く訴えることにより、ILOなどの国際機関から日本政府に対して強力なメッセージが送られることを求めます。この取り組みにより、国際労働運動の注目と国際世論の喚起に努めます。

3. 引き続き、政府との「ILO議長集約に係る定期協議」に、自治労とともに主体的に取り組みます。

4. ILOの中核的労働基準の遵守と、ILO94号条約(公契約)、105号条約(強制労働廃止)、111号条約(差別待遇禁止)、149号条約(看護労働)、183号条約(母性保護)、190号条約(暴力・ハラスメント)など未批准条約の批准促進にむけ、連合・公務労協・自治労とともに取り組みます。また、PSIJCの活動を通し、超党派の国会議員で構成するILO活動推進議員連盟(以下、「ILO議連」)と意見交換を行い、情報発信と共有をはかります。

5. PSIの「2023-2027行動プログラム(PoA)」で示された、公共サービス労働者の労働基本権確立、公共サービスの市場化反対、すべての人に対する尊重と尊厳、平等で公正な社会の基礎となる質の高い公共サービスの実現をめざします。

6. PSI-JCの活動を通じて、世界的な脅威である感染症・大規模災害の課題に関し、PSIで共有する情報を収集するとともに、日本国内の緊急公共サービス労働者の取り組みを発信します。

 

 

【アジア太平洋地域を中心とする国際連帯の取り組み】

7. PSIアジア太平洋地域の諸活動へ積極的に参加し、問題解決にむけて取り組みます。また、PSI-JCや自治労、公務労協、連合と連帯した活動を推進します。

8. 2018年4月、PSI本部において、消防職員をはじめとする緊急事態従事者で構成されたファーストレスポンダーネットワークが創設されました。全消協もこのネットワークと連携して、世界の消防・救急労働者の諸問題について、さまざまな国際組織への情報発信と共有を行い、国際連帯の推進をはかります。

 

 

【韓国消防労働組合との交流・情報交換】

9. 韓国公労総消防労組と定期的な相互交流(2024年度~2027年度)および情報交換をはかります(※2025年度は双方の都合が合わず開催できなかったため、交流最終年は1年ずれ込み、2028年度となる見込みです)。

10. 韓国の消防職員の労働条件、勤務環境を調査・研究し、日本における消防職員の団結権の回復や各種課題の解決への取り組みにつなげます。

11. 韓国消防労働組合の組織拡大・強化、活動内容を調査し、全消協の活動に活かします。

 

【国内における国際連帯の取り組み】

12. PSI-JCの活動を積極的に担い、女性・ユース世代の参画を促進し、他産別との交流や相互参画により、日本におけるPSI加盟組合の組織強化・拡大の取り組みに連携します。あわせて、これらの取り組みを全消協女性連絡会・ユース部の活動に反映します。

 

 

【国際連帯活動の情報共有と発信】

13. 国際連帯活動の取り組みについて、その実例を共有し、引き続き取り組みの必要性を加盟単協にむけて発信します。

 

 

 

(10)女性連絡会の取り組み

全国の女性消防吏員は2024年4月1日現在で6,124人となり、1969年に初めて採用されて以来、増加し続けています。2015年7月に総務省消防庁より「消防本部における女性職員の更なる活躍に向けた検討会報告書」公表後、関連通知の発出や消防大学校で「女性活躍推進コース」が開催され、2017年12月には「女性消防吏員活躍推進アドバイザー制度」が新設、要綱も改正されながら派遣対応されています。

しかし、総務省消防庁が女性消防吏員の活躍を推進し、消防職員全体に占める女性消防吏員の割合を2026年4月までに5.0%に引き上げる目標を定めているにもかかわらず、2024年4月1日時点で約3.7%にとどまっています。女性消防吏員を採用していない消防本部は11.8%と減少してきましたが、報告書の公表から約10年が経過している中、女性消防吏員のいない消防本部もいまだ多く見受けられます。注目を集めた報告書が発表されて以降、定期的な通知としては「女性消防吏員の更なる活躍に向けた取組等の調査の結果について」のみです。女性活躍推進法の施行以降、提示されないままであり、消防本部で初めて女性消防吏員を採用した場合、女性が孤立し、職場における情報の少ない環境の中で従事している状況もみられます。総務省消防庁による消防本部への働きかけ、広い分野で職務を広報する必要性があります。

女性連絡会がこれまでに実施したアンケートの調査結果や、2018年から定期的に開催している女性交流会から、ジェンダーに関する意識格差、施設の未整備、ハラスメント、職域制限など課題が明らかになりました。とくに、施設の整備や職域制限については改善傾向にあるものの、女性消防吏員が増加していく中で、ライフイベントに伴う、長期休業・休暇等からの復職について課題が浮き彫りとなっています。育児・介護休業法が改正され、性別を問わず仕事と育児の両立ができるよう国をあげて取り組みが進められていますが、制度が整備されていても休暇を取りづらい人員体制や職場風土の見直しなど、引き続き職場環境の改善が必要です。

住民サービスの向上をめざすためには、女性消防吏員が働き続けることのできる、ソフト、ハード両面の環境整備が重要であり、これらは女性消防吏員だけの問題ではなく、協議会全体としても取り組むべき課題です。

2025年3月、女性連絡会代表はPSI-JC女性委員として国際女性デー要請行動に参加し、政府・政党、ILO議連へ女性消防吏員の取り巻く現状について報告・要請を行いました。今後も、性別や会員に限らず広く意見を募るとともに、継続的に女性消防吏員の課題把握に努め、会員や関係機関へ課題を提起します。また、マスメディア、SNS等を活用した積極的な情報の発信や、各種研修会、意見交換会の開催、関係機関との連携をはかります。

また、韓国では女性消防吏員の割合が2022年で9.98%と日本の約3倍で、女性消防吏員の勤務労働条件の整備が進んでいます。日本の女性消防吏員の抱える問題・課題を韓国公労総消防労組と共有し、問題解決に活かします。

これらを踏まえ、女性消防吏員に関する諸課題の解決に貢献できる活動の展開と、すべての消防職員が能力を発揮しながら働き続けられる職場環境づくりに取り組みます。

 

 

【女性連絡会の取り組み】

1. 性差を問わず協議会活動を担う体制を確立し、ジェンダー平等の職場環境の構築をめざし、女性連絡会の活動を強化します。

2. 女性を取り巻く環境の実態把握に努め、働き続けられる環境の整備にむけ、課題を提起します。

3. 会員が積極的に全消協主催の研修会等へ参加し、意見を発信できる環境および、活動強化にむけた体制の整備をします。

4. 女性交流会の開催にあたっては、あらゆる世代が参加しやすいよう、ウェブの活用に努めます。

5. ユース部と協力して、LGBTQ+差別や男性の育児休業・休暇、性差を問わず解決すべき課題に取り組むとともに、相互理解を深めるための研修の実施や課題の提起を行います。

 

 

【女性会員との連携、非会員・未組織女性職員との交流】

6. 女性同士のネットワークを強化するとともに、女性連絡会の活動報告、学習会や関係機関の通知・通達などの情報を広く発信し、共有します。

7. SNS等を活用し、非会員・未組織女性消防吏員に対して活動を紹介するほか、女性連絡会を一つの相談先としてPRし、女性消防吏員間の連携を深めます。

 

 

【職場環境の改善への取り組み】

8. 女性会員を対象にアンケート調査を行う等現場実態をとりまとめ、総務省消防庁等の関係機関との意見交換を行います。あわせて、連合・ILO議連等の関係機関に課題を提起します。

9. 従前より課題となっている以下の課題について取り組みます。

① 施設や女性用被服の未整備

② 各種ハラスメントの解消

③ 緊援隊派遣に関すること

④ 育児や介護を担う職員の柔軟な働き方

 

 

【連帯活動の取り組み】

10. PSI-JC女性委員会およびユースネットワークの交流活動に参画し、全消協活動に活かします。

11. PSI規約に基づく、あらゆる活動でのジェンダー平等参画をめざし、女性の協議会活動への積極的な参画に取り組みます。

12. 自治労をはじめ他産別組織と女性消防吏員にかかる課題解決にむけ連携強化をはかり、全消協活動へ活かします。

13. 韓国公労総消防労組から経験や先進事例を学ぶとともに、女性消防吏員の抱える問題・課題を共有し、問題解決に活かします。

 

 

 

(11)ユース部の取り組み

ユース部は、ユース世代の協議会に対する思いや、求めること等について把握しつつ、さまざまな活動を展開し15年が経過しました。ユース幹事経験者が全消協幹事やブロック・県消協・単協内で役員を務めるなど、確実に協議会活動の発展につながっています。この間の活動の一つとして、次世代の協議会活動を担う人材を育成することを目的に、「全消協ユースStep Upセミナー」を開催し、全国のユース世代が感じている課題の共有や協議会活動・消防業務に関する学習を重ねてきました。こうした活動の展開とともに、全消協幹事会における各種取り組みに意見を反映してきており、引き続きユース会員の求める活動にむけて取り組みを強化していく必要があります。ユース部はユース世代の「問題」を「課題」として提起するとともに、引き続き、ユース世代の育成にむけ協議会活動の歴史やその必要性を学ぶセミナー等を開催し、全国のユース世代の活動に関する情報発信に取り組みます。

また、女性連絡会と連携し、ジェンダー平等に取り組み、LGBTQ+への理解促進や男性の育児参画など、誰もが働きやすい職場づくりにむけて取り組みます。さらに、他産別組織の青年部と交流を通じ、共通する課題について意見交換し、活動に活かします。

2024年度に韓国公労総消防労組との交流を行いました。今後、ユース世代の抱える問題・課題を共有し、問題解決に活かします。

ユース世代の活性化は、組織の強化や協議会活動のさらなる発展に不可欠です。若年層の立場から問題意識を持ち、意見反映を行うことで、より一層の意識向上につなげます。

 

 

【ユース部の取り組み】

1. 次世代の協議会活動を担う人材育成を目的とした活動を推進するため、各種学習会への参加を呼びかけることとし、ユース世代が今後の組織の一翼を担えるよう以下のことに取り組みます。

① 全消協ユースStep Upセミナーを開催し、ユース世代のさらなる意識の向上をはかり、活動を強化します。

② ユース世代を対象としたアンケート調査を実施します。その結果を分析し、活動へ反映するとともに、会員に対し情報提供を行います。

③ 単協・県消協のユース部との連携強化をはかります。また、自治労単組・県本部等の青年部とも連携を強化し、活動の幅を広げます。

④ 各ブロックユース部とウェブを活用した積極的な交流や合同会議を実施します。

2. ユース部の活動を、マスメディア・SNS等を活用し、情報を発信します。

3. 女性連絡会と連携し、LGBTQ+への理解促進や男性の育児参画促進、ジェンダー平等に取り組み、関連する諸課題を共有します。

 

 

【連帯活動の取り組み】

4. PSIの諸会議に積極的に参画し、全消協活動に活かします。

5. PSI-JCに設置されているユースネットワークに参画します。あわせて、PSI加盟組織のユース世代と連携をはかり、全消協活動へ活かします。

6. 他産別組織とともに、ユース世代にかかる課題解決にむけ交流をはかり、全消協活動へ活かします。

7. 韓国公労総消防労組から、経験や先進事例を学ぶとともに、ユース世代の抱える問題・課題を共有し問題解決に努めます。

8. ユース部においてアンケート調査を行うなど現場実態をとりまとめ、ILO議連等の関係機関に課題を提起します。

 

 

【単協・県消協の取り組み】

9. 単協・県消協は、次のことに取り組みます。

① 単協・県消協の組織形態に応じて、ユース部の設置、ユース世代の役員や委員の選出を積極的に行います。

② ユース世代の会員に対して、協議会・単組・県本部の活動に積極的な参画を促します。