第37回全国消防職員研究集会
研究集会報告
全消協第37回研究集会は「防げ災害! 守れ命! ―不死鳥の町から広域化を考える」をメインテーマに、5月14日~16日に福井市・フェニックスプラザを主会場に開催され、全国から全消協未加盟・未組織消防本部の消防職員を含め113単協、約300人が参加した。未組織の仲間の参加は地元の福井市消防本部を含め7職場であった。
初日の基調講演では、地方自治総合研究所研究員の飛田博史さんから、「財政的観点からみた消防広域化」について、講演を受けた。飛田さんは、「消防広域化」が必ずしも消防費の効率的執行をもたらしていないとし、広域化に対して慎重な取り組みが必要と指摘した。
2日目は、①組織強化・拡大、②賃金・労働条件の改善、③消防救急体制の課題、④労働安全衛生、⑤男女共同参画の各分科会に分かれ、議論を深めた。
最終日には、自治労労働局の江﨑孝局長から「公務員制度改革の到達点と今後の展望」をテーマに、特別報告を受けた。
基調講演
「まず30万人ありき」の広域化は本末転倒
消防費の内訳を見ると歳出総額の71・7%が人件費であり、労働集約型のまさに消防士あっての行政の特徴を表している。この経費に充てる財源は88・6%が税や地方交付税等の使途の自由な一般財源等であり、9割近くは自治体の「自腹」だ。
今回、国が進める消防の広域化ではいくつかの財源措置が講じられるが、その内容は広域化に要する事務経費の補てんや施設整備の投資的経費に対する一部財源措置であり、結論からいえば各自治体の財政を底上げするものではない。
広域化の問題点は、国の指針に基づき、都道府県が30万人圏を目安とする広域化計画を策定し、市町村にこれを事実上押しつけようとする点にある。
理論的には30万人レベルの広域化で消防行政の高度化や人員の効率化が図ることができるということであるが、地域によっては高度車両や大都市で想定される広域な焼損面積へ対応する消防力は必ずしも必要のないところもある。30万人という人数ありきではなく、地域にあった消防や救急のあり方を住民に身近な行政単位で考え、必要に応じて広域連携を図ることが分権的な自然の流れだ。
財政の原則は国民、住民にとって必要な行政を精査し、これに応じた財源を調達すること。その意味では有利な財源があるからこれに行政サービスを合わせるというのは本末転倒だ。
分科会の概要
第Ⅰ分科会/組織拡大
「広域化への対応通してピンチをチャンスに」
消防の広域化について、自治総研の飛田博史研究員からは財政の面から決算カードの活用方法と財政の留意点について、全消協の吉川大介幹事からは住民の立場に立った消防職員によるシミュレーションの作成と対案の確立について問題提起を受けた。
班別討議では、スケールメリット達成の有無と、消防サービスの維持向上の2点について論議した。
その後、自治労の長沢正一組織局次長から自治労から見た消防広域化と組織強化拡大・労働組合と団結権などの提起があり、関連して全消協の山﨑均事務局長が「協議会が情報の発信源となり、仲間を広げる地道な活動を進めることが団結権付与へとつながる。ピンチをチャンスに」と訴えた。
最後に、全消協の住吉光男副会長が「消防職員が研究した結果を参考に発案し活動に活かしていただきたい」と締めくくった。
第Ⅱ分科会/賃金労働条件
「日給などの課題を考察」
午前の部は自治労顧問弁護士の藤原修身弁護士を講師に、年末年始の祝日給が誤って支給された問題を考察した。同弁護士は、「条例等の解釈を誤り長年にわたって手当を支給してきた責任は支払った使用者側にあり、職員には責任はない。使用者側の過失責任を明らかにし、勤務時間条例の改正とあわせた問題解決が必要」と指摘した。
午後の部は、各本部の勤務シフトの課題を抽出した。また、問題の解決策を参加者同士が探りあうなど、ブロックや単協の枠を超えた貴重な時間となった。
第Ⅲ分科会/救急医療
「理想の救急体制語る熱い講義に釘付け」
第Ⅲ分科会は、76人が参加者した。
午前中、小田規親幹事より「消防救急体制の課題」と題し、救急件数の増加に対する抑制策や横浜の救急特区(2人救急体制)について内容説明と課題の報告があった。また硫化水素ガスによる自殺事例報告、ガスの特性や対応、活動時の諸注意が情報提供された。続いて、班別討議に移り、シンクタンクの小川委員から出された9つのテーマから1つを選び討議し、昼食休憩後、各班の発表を行った。
その後、福井大学医学部教授の寺澤秀一さんが「救急医からのメッセージ」と題して講演した。寺澤先生は救急体制(各科協力型、救命型救急、ER型救急)、理想的な救急体制、広域MCの問題、医療訴訟や紛争など救急業務に関わる問題などを講義。貴重な内容にユーモアを交えての話に、参加者一同は釘付けだった。
第Ⅳ分科会/安全衛生
「惨事ストレスの対応策を学ぶ」
「心のケアと快適職場づくり」を分科会テーマに、兵庫県こころのケアセンター副センター長の加藤寛さんを講師に迎え「惨事ストレスとその対策について」と題した講演を受けた。
兵庫県こころのケアセンターは阪神大震災を機に創設され消防職員の惨事ストレス、PTSDについて幅広く研究を行っている。
講演は主にパワーポイントを用いて行われ、加藤先生が国際援助隊で被災地へ赴いた時の体験談を交え、自衛隊、警察と消防との災害現場での活動の比較、惨事ストレスの割合について話された。
また、阪神大震災の経験を踏まえ、惨事ストレス(CIS)や外傷後ストレス障害(PTSD)の背景や症状、消防職員が惨事ストレスを引き起こしやすい状況であること、そのストレスについての具体的な対応策を学んだ。
惨事ストレスは避けられないものなので、対応は事前準備が不可欠であり、①専門知識を得た担当職員の養成、②事後の介入方法は試行錯誤の段階で、消防組織に合う方法を考えるべきであろうとの提案を受けた。
午後からは福井市消防局の協力を得て職場見学を実施し、福井市消防局の安全衛生対策の取り組みについて学び、分科会を終了した。
第Ⅴ分科会/男女平等
「ジェンダーを初めて考えた」
第5分科会は進行役に元自治労執行委員の野田那智子さん、講師に元自治労副執行委員長の笠見猛さん、前橋市職労書記長の田村友紀さんを招き、参加者33人で開催した。午前中は笠見さんによる「男女共同参画社会の実現に向けて」と題する講演を受け、質問を考えるグループ討論を行った。
午後は田村さんの「日常生活からジェンダーについて考える」と題した実践報告の講演の後、雑誌からジェンダーを読み解くワークショップを行った。
参加者からは「初めてジェンダー平等について真剣に考えた」「女性の職場環境を整えることで、男性にとっても過酷な労働条件の改善につながると思う」などの感想が寄せられた。
特別報告
「団結権獲得に向け連合、政党との連携を」
江﨑労働局長は、行政改革推進本部専門調査会での議論経過について「労働基本権は正常な労使関係のために必要との労働側の意見と、政府側の消防職員の団結権付与には国民生活への悪影響や社会不安を引き起こすとする主張が折り合わず、双方意見の両論併記となった」と述べ、ILO対策の強化や連合・公務労協、協力政党などとの連携の必要性を強調した。